以前Bösendorfer(ベーゼンドルファー)の工場見学に行ったことを話題にしましたが、そのBösendorferには様々なモデルがあります。
大きく分けてグランドピアノとアップライトピアノと2つのタイプがあり、ベーゼンドルファーもアップライトピアノをいくつか製造しています。
でもベーゼンドルファーのアップライトピアノが置かれているのを今まで見たことがないような気がします。ここでは工場でアップライトピアノの製造を見ることができます。アップライトピアノだったらベーゼンドルファーじゃなくても・・・と思います。ベーゼンドルファーだったらスタインウェイ同様にグランドピアノでしょうね。
さて、このベーゼンドルファーには普段製造しているモデルの他に様々な企業や個人から特別注文が入り、その希望に合わせてオリジナルのモデルも製造しています。
例えばピアノの色は黒が一般的ですが別の色にしたいとか、木目調であったりとか、バロック調であったりとかモダンなデザインであったりなど様々な特注があります。その中でちょっとおもしろかったものに"クリムトモデル"がありました。
特注と言っても形はグランドピアノですから、ピアノの構造が変わるわけでもなく、音だってそのままです。
でもピアノの譜面立ての装飾やピアノの蓋の内部に描かれている絵に注目して下さい。
これはウィーンの世紀末画家のグスタフ・クリムトがテーマになっています。
クリムトと言えば"接吻"で知られ、日本にもクリムトファンが多くなってきました。
譜面立ての所にはクリムトのサインが見られ、彼の装飾模様が譜面立てに見られます。
また、ピアノのふたの部分に描かれているのはアデーレ・ブロッホ=バウアーNo.1です。
この絵はクリムトが1907年に完成した有名な作品です。
この作品は以前、ベルヴェデーレ宮殿に展示されていましたが、オーストリア政府とブロッホ=バウアーの姪マリア・アルトマンおよびその共同相続人との間に起った2006年までの長い法廷争いがあり、オーストリアから離れてしまったという有名な出来事がありました。映画「黄金のアデーレ 名画の帰還」を見た方も多いのではないでしょうか。
この絵はベルヴェデーレ宮殿に展示されていた時に、私も数え切れないぐらい皆様にこの絵の説明をしました。
クリムトのこの絵がまさかベーゼンドルファーのピアノのふたに描かれるとは思いもしませんでした。
ベーゼンドルファーのこのふたの中には見事にアデーレ・ブロッホ=バウアーが描かれていて、光沢もあります。
光の加減によってのこの絵の見え方が素敵です。
このピアノの値段に興味があったので社長と工場長のトーマスさんに聞きました。
ベーゼンドルファーは推奨価格はあるものの、世界各国の取引先がその国の物価水準なども考慮して値段が決められるそうですので今回ここを訪れた日本に住んでいる皆様には価格は出せない・・・というのが最初の回答でした。
でも、「私が購入するとしたらいくらでしょうか?」と聞きました。「あなたはウィーンに住んでいるので私達が価格を決められますから」と言われ、2人で少し話し合われた後に150.000ユーロという金額が提示されました。
喜んで売ってくれるそうです。(笑)
このショールームには他にもヨハン・シュトラウスモデル、オスカー・ピーターソンモデルなどいくつかの特別モデルが展示されていました。
このようなものを見るとウィーンの古楽器博物館を思い出します。
そこにもベーゼンドルファーの歴史的ピアノがいくつか展示されています。