私が個人的に好きな空間のひとつに新王宮があります。
ここの内部にはSäulenhalle(ゾイレンハレ)という美しい空間や、素敵な階段ホール、
古楽器博物館、世界博物館、狩猟・武器鎧博物館・エフェソス博物館などがあり、いつ行っても空いています。
ついでにエレベーターに見えないエレベーターもここにあります。
ここの古楽器博物館は個人的にも好きなスポットですが、仕事でも意外と年間を通して行くこともあります。
ここには様々な楽器が年代順に展示さていて、重要な作曲家自身の楽器や演奏した楽器、
珍しいものなど様々で、しかもハプスブルグ家と音楽家がリンクしていてとても充実した内容になっています。
"古楽器"というとリュートやチェンバロ、クラヴィコードなどがすぐ浮かんでくると思いますが、この博物館にもたくさんのチェンバロやクラヴィコードが展示されています。
形も小さなものから今のグランドピアノのような大きなものまで様々です。
その他にもピアノフォルテとかハンマークラヴィーアとか名称も多くなっていきます。
音楽に詳しい方でしたら別に当たり前のことですが、チェンバロとクラヴィコードの違いは意外と知られていないようです。
この古楽器博物館には直接触れるチェンバロとクラヴィコードがあり、実際に違いを見て、
感じることができます。
また、別のコーナーには鍵盤のメカニズムが展示されています。
こちらはチャンバロのメカニズムです。英語ではハープシコードと言いますね。
チェンバロは15世紀~18世紀にかけて非常に普及した
鍵盤楽器(撥弦楽器)で、弦をはじいて音を出す楽器です。
この写真では水平に弦が張られているのが見えていますね。下に見える細長い木の棒が鍵盤で、鍵盤は一番左で透明ケースからはみ出ていますね。
鍵盤を弾くとその先に付いている2本の棒(ジャック)が押し上げられて、そのジャックの側面に装着された鳥の羽軸などからできたPlektrum(プレクトラムはいわゆるピック)が
弦を下から上に弾いて音が出ます。
そんのため現代ピアノのように基本的な強弱の調整は不可能です。
しかし、レジスター(ストップ)を備えているチェンバロも多く、音色を段階的に切り替えることができます。
チェンバロと同じ原理で音を出すものは他にも、小型のスピネットやヴァージナル、
クラヴィツィテリウムなどもあり、小さな箱型や三角形、長方形、グランドピアノの形などがあり、装飾も様々で時代を感じることができます。
こちらはクラヴィコードのメカニズムです。
クラヴィコードは16紀~18世紀に普及し、形は長方形です。
チェンバロと違って鍵盤の先にはタンジェントと呼ばれる金属片が取り付けられていて、鍵盤を弾くとそれが押し上げられて直接弦に触れます。
音量はチェンバロと比べると小さいですが、弾く強さで音量を調整することができ、また弾いた直後に弦に触れている時間を利用してビブラートをかけることもできます。
19世紀になってから現代ピアノに近づくにつれて姿を消していきましたが、現在ではクラヴィコード協会もあって復活しています。
こちらはHanmmerklavier (ハンマークラヴィーア)のメカニズムで、現代ピアノに近くなっています。
17世紀の終わりにイタリアのバルトロメオ・クリストフォリがチェンバロにハンマーを組み込んだことから現代ピアノの第1歩が始まりました。
一般的にこの時から19世紀初頭までのハンマーを組み込んだピアノのことを"ピアノフォルテ"と呼びます。
ドイツ語では
Hammerklavier(ハンマークラヴィーア)とかHammerflügel (ハンマーフリューゲル)とも呼ばれています。
ちなみに今でも"Flügel"と言えばグランドピアノを指します。
写真は18世紀初頭のチェンバロをハンマーフリューゲルにしたものです。
鍵盤の先にはハンマーが取り付けられているのが見えます。
ハンマーには革が張られていて、これが直接弦を叩くわけです。
今のピアノのメカニズムにかなり近くなっていることがわかります。
アクションやハンマーは軽く、現代ピアノよりも軽いタッチで持ちあがり、反応も非常にいい楽器で、どんどん普及していきました。
簡単に言えばチェンバロとクラヴィコードがあったからこそ現代ピアノが生まれることになるわけです。
このような楽器の歴史的流れが見えてくると、歴史に名を残した有名な音楽家達の作品も
現代ピアノの響きではなかったことが理解できますね。