ウィーンは数多くのユーゲントシュティール様式を見ることができますが、その中でも特に重要な建築のひとつであるアム・シュタインホーフ教会があります。
この教会は、以前にもこのコーナーでも紹介したオットー・ヴァーグナーによるもので、ウィーン14区の「Sozialmedizinisches Zentrum Baumgartner HöheOtto-Wagner Spital und Pflegezentrum」という精神病院敷地内奥の小高い所に建っています。
この病院はもともと1904~1907年、低部オーストリア州立の神経・精神病患者のための治療と介護施設の「Am Steinhof」ということで建てられました。
ここは当時この分野ではヨーロッパ最大であり、最もモダンな施設でした。
オットー・ヴァーグナーは教会だけでなく、この施設のプランにも携わりました。
宗教的には聖レオポルド教会ですが、Kirche am Steinhof (シュタインホーフ教会)という名前の方がはるかに知られています。
1907年10月8日 フランツ・フェルディナント
皇太子によってオープニングが行われました。
フェルディナント大公は、ユーゲントシュティール自体に興味がなく、オットー・ヴァーグナーとはプランの段階から意見が異なっていました。
そのためオープニングセレモニーではヴァーグナーの名前も挙げられず、ハプスブルグ家
からは依頼も入らなくなりました。
金が貼られたドームが印象的で、歴史的建築様式で作られている教会とは全く異なった雰囲気です。
このドームに使われている金はたったの2kg です。
当時様々な建築様式が出揃っていた歴史主義時代から見ると、とても考えられないスタイルで作られています。
オットー・ヴァーグナーは時代に相応しいスタイルと鉄骨、ガラスといった素材を使い、
その時代19世紀終わり~20世紀初頭に相応しい芸術を考えました。
芸術は鑑賞されるだけのものではない・・・ちゃんと使われてこそ意味があるものであり、その機能性にも美しさがなければいけない・・・という画期的なコンセプトで、ウィーンの街に新しい風を吹き込ませたのです。
そのためこの教会も通常とは全く違うコンセプトで作られました。
こちらは教会内部メイン祭壇に向かっての光景です。
オットー・ヴァーグナーは精神病の患者達によって
使われる・・・という目的を念頭に置いてプランしたので、通常の教会では全くあり得ないことがこの教会ではたくさんあります。
例えば・・・
トイレ、医務室、非常口も
作られ、ミサ中などに患者が椅子にぶつけて怪我をしないよう角をまるくしたり、
衛生面を考え、聖水を常設ではなく、水道の蛇口のように水がしたたり落ちるように作り、また患者が後ろからもよく正面がよく見えるように、祭壇に向かって床が下り坂になっていたり・・・などと様々な角度から使う人の立場を考えています。
また当時の精神病分野の規定で、男性患者、女性患者は分けられていたため、この教会の入口も男性患者用、女性患者用とあります。
更に教会内の清掃も考え、床に直接水を流しても、教会椅子の木が水に触れないように工夫されています。
教会建築では、基本的にメイン祭壇が東を向き、入口が西側に作られるという特徴がありますが、このアム・シュタインホーフ教会では、メイン祭壇が北向き、入口が南側に作られています。
これは、東から登る太陽が、西に傾くまで、一日中教会内に光が入ることを考えています。
こちらは教会内部のステンドグラスです。
これはオットー・ヴァーグナーのプランにより、コロマン・モーザ―によるものです。
コロマン・モーザーは、クリムトと共にウィーンセセッションの初代設立メンバーのひとりでも
あり、1903年にはヨーゼフ・ホフマン、
フリッツ・ヴェルンドルファーと共にウィーン工房も設立した画家であり、工芸家でもある芸術家です。
このアム・シュタインホーフ教会は、ウィーン中心からはかなり離れた所にあり、しかも入場できる時間がとても限られています。
この教会は中に入って初めて、オットー・ヴァーグナーのコンセプトに驚かされます。
普通に案内無しの自由見学も時間内であればできますが、ここは案内があった方が絶対におもしろいです。
ガイドツアー
毎週土曜日 15:00 毎週日曜日 16:00
内部見学
毎週土曜日 16:00~17:00
毎週日曜日 12:00~16:00
https://www.wienkav.at/kav/ows//ZeigeText.asp?id=2273