ヨーロッパ西側はキリスト教の発展や市民社会の確立などの影響もあり、様々な様式が
時代と共に存在し、それを現在私達の時代でも見ることができるわけです。
以前ユーロ紙幣のデザインをテーマにした時にも、ユーロ紙幣にもヨーロッパの主要な
建築様式が使われていることを紹介しました。
これらの様式は、建築、音楽、絵画、キリスト教、生活習慣、工芸品などなどあらゆる所に見られます。
絵画と言えばウィーンでは真っ先に美術史博物館が出て来ると思いますが、
ここは15世紀~18世紀の絵画史上とても重要な作品が目白押しです。
15世紀~18世紀といえば大きく分けてルネッサンスとバロックですね。
ルネッサンスの前のゴシックやその前のロマネスクでは、キリスト教の世界はとにかく神が中心であり、古代のギリシャ、ローマで培われた人間が主役である芸術が忘れ去られていました。芸術家という考え方はなく、絵を描く職人だったわけです。
しかし15世紀初頭フィレンツェから始まる、ルネッサンスは、古代復興であり、
人間が再び主役として登場し、絵画にも感情が吹き込まれ、遠近法なども確立されて、
ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロといった3大巨匠を雨生み出し、
絵画分野は飛躍的な発展を遂げることになります。
でもいきなりこの3大巨匠のような作品が登場したわけではありません。
絵画の世界では、イタリアのジョット(1266~1337)が絵画に最初に魂を吹き込んだと
されています。
フィレンツエのドゥオモの大ドームを手掛けたブルネレスキー(1377~1446)は遠近法の実験も行い、フィレンツェでヨーロッパ最古の捨て子養育院の建築にも携わります。
こちらは言わずと知れた
フィレンツェのドゥオモです。
高さ約115m,直径45mの八角形です。
1418年にブルネレスキーの案が採用されました。
こちらは捨て子養育院です。
やはりブルネレスキーで、
1419年のものです。
リズミカルなアーチ構造が印象的です。
絵画ではマザッチョ、彫刻ではドナテッロ、建築のブルネレスキーとルネッサンスの幕開けを告げたそれぞれの分野の巨匠達がいたわけです。
とりわけ、絵画ではパウロ・ウッチェロ(1397-1475)、
フラ・アンジェリコ(1387/1400-1455),マザッチョ(1401-1428/29),
フィリッポ・リッピ(1406-1469),ピエロ・デラ・フランチェスカ(1415/20-1492)
といった画家達が遠近法を駆使して素晴らしい作品を残しています。
ウィーンの美術史博物館には上述の画家達は見られませんが、同時期の画家の手による、
ゴシックからルネッサンスの移り変わりを見ることができるおもしろい祭壇画があります。
これは聖ヒエロニムスの祭壇で、Antonio Vivarini (1415~1486頃)によるものです。
ヴィヴァリーニはヴェネツィアムラーノで生まれ、マンテーニャやドナテッロと接触し、
空間の把握を学んだとされ、ゴシック様式の伝統をベースにした宗教画家で、
ヴェネツィア派の発展に貢献しました。
ヴェネツィアのシュテファノ聖堂のために1441年に描かれたもので、上下3枚ずつ
計6枚の聖人が描かれたヴェネツィア風スタイルになっています。
上の部分はギリシャ正教で見られるイコン画的要素で、当時すでに時代遅れだった
金箔が背景に使われ、空間が全く感じられません。
下の段の中央に描かれているのが聖ヒエロニムスです。
この下の段の3枚には、台上に聖人が載っていて、3次元空間表現を見ることが
できます。
さらに絵だけではなく、この祭壇の枠組みも観察すると、基本は高く伸びるゴシック様式
ですが、それぞれの絵の上部にはルネッサンスを予感するアーチ構造を見ることが
できます。
前述の捨て子養育院にも使われたルネッサンス時代のアーチは安定感、リズミカル、
古代のアーチとは違ったやわらかさを感じます。
ゴシック様式とルネッサンス様式の中間に位置するヴィヴァリーニのこの祭壇は
時代様式の移り変わりが見られるという点でおもしろい祭壇画です。